2010年5月13日木曜日

実験考古学の登場

 ◆石器がそんなに威力があるの?

 ここまで書いたとき読者から質問がありました。「日本人の祖先があの巨大なマンモスを狩っていたというけど、単なる石器で倒せるのか。また石で丸木舟が作れるはずがない」というものです。もっともな話で、我々が習った教科書にも日本人の先祖がマンモス狩りをしていた、という記述はありません。
 日本人の祖先がシベリヤからやってきた証拠は、ミトコンドリアDNAだけではありません。シベリヤの2万3000年前のマリタ遺跡という遺跡で、細石刃(さいせきじん)を植刃した槍が出土しました。このシベリアで出土したのとそっくり同じ細石刃の槍が、北海道からも出土しています。
 細石刃というのは、黒曜石などを割って剃刀の刃のように加工した石片です。これを鹿の骨などの両側面に植刃して槍の穂先にしました。シベリアに移動したモンゴロイドは、この細石刃の槍でマンモスなどの大型動物を狩っていました。でも、石器の槍でマンモスを狩ることなんて果たして可能なのでしょうか。そこで登場したのが実験考古学です。実験考古学者が実際に細石刃を植刃した槍を作って実験してみると、ものすごい破壊力で、動物の皮を簡単に突き破ってしまいました。当時の人々はマンモスを池や沼地に追い込み動けなくなったところを、この槍で仕留めたらしいのです。
 シベリアのマンモスは氷河期の寒冷化が強まると南下を開始し、その一部は樺太を通って北海道へと移動しました。そのマンモスを追ってモンゴロイドも北海道にやってきたのです。それを証拠づけるのが、北海道から出土している細石刃とマンモスの臼歯なのです。
 そこで問題なのは海です。現在は大陸と樺太、北海道、そして本州は海峡によって隔てられています。マンモスや私たちの祖先はどうやって海を渡ってきたのでしょう。
 氷河期には海面は今より100mも低かったのです。大陸と樺太・北道は陸続きでした。深い津軽海峡も今よりずっと狭まっていて、厳冬期には氷結して通行可能です。日本列島は事実上、大陸と地続きだったということです。
 マンモスを追ってシベリアからやってきた人々は、約2万年前に北海道に到達しました。その後マンモスは人間に狩られて絶滅してしまったとみられます。

◆威力抜群の丸ノミ石
 現代人は石器で丸木船が作れるのかと思ってしまいますが、例えば石を磨いてつくった彫刻刀のような磨製石斧の丸ノミ石。南方系縄文人はこのの石ノミで丸木船を造り、黒潮に乗って鹿児島にやってきました。沖縄の港川人遺跡では人骨と磨製石斧が一緒に出土しています。
 実験考古学では磨製石斧を使って直径30センチぐらいの木を切り倒してみたのですが、なんと30分位で切り倒されました。磨製石斧はへたな鉄の斧と変らないぐらいよく切れるものだったのです。だから丸木船をくりぬくこともできたんですね。 日本人の祖先の知恵に敬服します。

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