2010年6月16日水曜日

自然循環型の水田

 ◆自然共生型の牧畜畑作も

  前日の記事で自然収奪型の牧畜畑作文明の恐ろしさを書きましたが、牧畜畑作農業のすべてが悪いわけではありません。自然循環型、自然共生型ともいえるすばらしい牧畜畑作農業もあります。現代に例をとってみますと北欧諸国、スイスを中心としたアルプスのすそ野地帯です。

  これらの国々では放牧を例にとりますと牧場は一定の面積ごとに区画が設けられ、家畜は一つの区画で草をある程度食べると隣の区画に移されます。前の区画では再生可能量を上回る草が残され、家畜の排泄物を肥料に再び育ちます。こうした区画を順繰りに家畜は周り、草と家畜といい関係ができるのです。収益優先の過剰放牧はしません。各区画では草が一定以上、常にありますから、雨が降っても土壌は流出しません。牧場には必ず木が植えられていますから家畜の日よけにもなり、土壌保全の役割も果たします。

  畑作地は石やコンクリートで土留めが設けられ、傾斜地でも土壌が流出しません。畑地では収穫直後には次の作物が植えられ、土壌は作物の被覆を受けます。例えば小麦では春作と秋作が連続して行われます。また春作の小麦の後にジャガイモを植えるなど土壌には何らかの作物が植わっているのです。また春作の後には牧草を生やす、などの手法も講じられています。この結果、土壌には常に何らかの植物が覆っている状態が続き、雨による表土流出がありません。これらの国々が現在では自然保護運動の最先端を走っていることを明記しておきます。

  森林も守られています。伐採は特別な例を除いて許可されません。土壌保全と景観保護の目的があるからです。フィンランドでは木々に番号がふられ、自宅の木を切るにも地方公共団体の許可が必要です。森林がある限り雨が降っても表土の流出はありません。

 ◆森と共存した水田

  さて長江文明の水田は「自然循環型」との記事を書きました。なぜ、水田が自然循環型なのでしょう。水田は水を張りますから傾斜面にはできません。傾斜地では一枚一枚の水田を平らにつくり段々畑状に上に積み上げていきます。「棚田」と申します。広大な中国ですから日本でいうような棚田はなかったでしょうが、海岸から奥地に向け等高線状に水田が作られていたことは間違いありません。水田は米の生産だけでなく、自然や人間にとって多くの役割を果たしてくれました。山に降った雨を一時的にストックして、それを地下にしみ込ませてゆっくり放流し、下流域で再使用できる「水資源涵養機能」や「洪水調整機能」を持っています。ダムの役割もはたしているのです。古代では多くの生き物が水田に住み着いていました。その典型が魚です。魚は時として長江人の蛋白源となり、長江人や家畜の排泄物が水田の肥料となりました。上流からは常に栄養分を含んだ水が流れてきました。

  さらに長江人は森の大切さを知っていました。森は水田に必要な水資源の涵養をするのです。森を切ってしまえば水の供給が止まります。したがって森を荒らす放牧はおこなわれませんでした。文字通り自然循環型なのです。長江人の穏やかであったであろう人柄がしのばれます。
 

1 件のコメント:

  1. 清雅坊です。

     ごめんなさい。17日付原稿として投稿したはずなのに16日付で出てしまいました。我が家の時計が間違っていたのでしょうか。投稿時間は16日23時59分になっていました。我が家の時計では17日午前1時7分でしたのに。いずれにしても17日付原稿です。よろしくお願いします。

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